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アムステルダム市が公表した
「サーキュラーエコノミー2020-2025戦略」の要点とは?

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2020.05.31

アムステルダム市が公表した「サーキュラーエコノミー2020-2025戦略」の要点とは?

アムステルダム市は4月8日、サーキュラーエコノミー移行の5年計画「Amsterdam Circular 2020-2025 Strategy(アムステルダム市サーキュラー 2020-2025 戦略)」を公表した。
同市は2015年、世界の自治体では初めてサーキュラーエコノミーへの移行の可能性について詳細な調査を行い、その後2050年までに完全サーキュラーエコノミーへ移行を目指すと宣言。70以上のサーキュラーエコノミーに関するプロジェクトが生まれ、現在も200のプロジェクトが進行中だ。2019年6月には、2020年から2025年までの5年間の方向性を示したレポート「Building Blocks for the New Amsterdam Circular 2020-2025 Strategy」を発表。今回の「Amsterdam Circular 2020-2025 Strategy」はさらに実行可能なレベルに具体化した戦略として位置づける。

2050年アムステルダム市サーキュラーエコノミー移行戦略の主なポイント

アムステルダム市のサーキュラーエコノミーに関しては、同市に本拠を置くサーキュラーエコノミーの推進団体Circle Economyが市と協力しながら 戦略立案の中心を担っている。これまでの経緯については、Circle Economyのインタビュー記事をご参照いただきたい。
まず2050年に向けた長期目標について触れておきたい。同市は、100%サーキュラーエコノミーへの移行を実現するとした2050年までの長期戦略を既に公表している。下記がそのポイントである。

Amsterdam Circular 2020-2025 Strategyの概要

Amsterdam Circular 2020-2025 Strategyのポイントは下記の通りだ。

上記の各マイルストーンは、下の図で示されている。

Amsterdam Circular 2020-2025 Strategy Public Version P7より

製品サイクル処理の優先順位

サーキュラーエコノミーでは、製品サイクルにおいて、原材料を最大限使い続けることが重要となる。戦略では、取るべき手段の優先順位を示した図が示されている。

Circular processing ladder 「Amsterdam Circular 2020-2025 Strategy」(P12)
を筆者が和訳(青字は筆者が追記)

上の図が「Circular processing ladder(サーキュラーエコノミー処理過程のはしご)」である。製品の処理過程において、取るべき優先順位は上から順番に高くなっている。

各過程は大きく次の3つの段階に分かれる。最初の段階は、拒否・再考・リデュースだ。製品の設計やビジネスモデルに関わる。次はリユース・修理・改修・再製造で消費に関係する。製品をいかに長く使うかがポイントである。最後の段階は、別用途で再利用・リサイクル・エネルギー回収だ。これらは回収・回復に関連。エネルギー回復を目的とした焼却は、あくまでも最後の手段としての利用が望ましいとしている。

ドーナツモデルの適用

英国オックスフォード大学上級客員研究員の経済学者ケイト・ラワース氏が開発したドーナツ経済学のドーナツの適用が同戦略の大きな特徴である。社会的な欲求を充たしながら環境負荷をなくし、都市を総合的に発展させていくという方法論だ。今回のドーナツの策定に関しては、こちらの記事でも紹介しているので、ぜひお読みいただきたい。

ケイト・ラワース氏が考案したドーナツをアムステルダム市に適用した図(「Amsterdam Circular 2020-2025 Strategy」 P14より)
上図のように、ドーナツの内側は社会的な欲求を示している。健康や教育、公正、ネットワークなどの欲求が満たされなければ、ドーナツの内側に入ってしまう。外側は環境負荷を表している。温室効果ガスの増加による地球温暖化や生物多様性の損失など、環境破壊が進んでしまうと、ドーナツの外側に位置してしまう。外側と内側に挟まれた安全で公正な範囲、すなわち上図でいう白の部分が市の目指す「繁栄した都市」を意味する。

同戦略では、この概念を実践レベルに具体化し、各施策に盛り込んでいる。例えば、食であれば健康の増進、シェアリングであれば市民同士のつながりの創出、建築の循環化に関しては新しい領域での雇用増など、それぞれの施策をドーナツ経済学の概念に置き換えている。これにより、これまで忘れられがちだった「社会」の要素がサーキュラーエコノミーの取り組みに加わり、環境・経済とともにバランスのよいアプローチがとれることとなった。アムステルダム市のドーナツについての詳細レポート>詳細レポートはこちらで参照が可能だ。

戦略の3つの重点分野

同戦略は、市が影響を及ぼしやすい重点分野として、3つの産業(「食品と有機性廃棄物」「消費財」「建築」)を選定。下記が主なポイントだ。なお、各分野で記載している「Innovation and Implementation Programme 2020-2021(イノベーションと実行プログラム)」は、2020年から2021年の2年間の目標であり、その後の規模拡大を見据え、知見や経験を得るための試験的な性格を帯びている。

食品と有機性廃棄物

食品や有機性廃棄物のバリューチェーン全体が対象。

[Innovation and Implementation Programme 2020-2021]

消費財

電子機器からアパレル、家具にいたるまでの消費財が対象。

[Innovation and Implementation Programme 2020-2021]

建築

建築物や公共の場における、調達から設計・建設・解体にいたるまでの一連の流れが対象。

[Innovation and Implementation Programme 2020-2021]

効果測定

同戦略の効果測定については、今後、ドーナツの考え方も取り入れながら総合的に測定できる指標を開発予定としている。それぞれの製品やプロセスの環境負荷のレベルについては、同時に発行された「Amsterdam Circulair Monitor」(オランダ語のみ)に記載。例えば、市内で製造・消費される原材料の量を数値化するなど指標を開発中だ。指標は主に5つで構成される予定としている。原材料投入・処理・廃棄物回収・廃棄処理・社会的な土台の5つだ。前の4つは環境指標、最後の社会的な土台は社会指標として位置づけられる。

また、CO2の排出量の現状として、市全体の排出量の63%はスコープ3(原料調達・輸送・通勤・廃棄など、企業や自治体が間接的に排出)であると算定した。サーキュラーエコノミーへの移行はCO2排出を減らすことになるとし、今後サーキュラーエコノミー関連施策が遂行されるなかで、気候変動対策との関連づけも行われるとみられる。

戦略の特徴

今回の戦略の特徴として、下記ドーナツモデルの適用・市の率先垂範・消費者(市民)の行動変容の期待の3点を挙げる。

ドーナツモデルの適用

ケイト・ラワース氏により提唱されたドーナツ経済学の概念を採用することにより、経済や環境だけではなく、社会の要素にも踏み込んでいる。サーキュラーエコノミーは、経済と環境に焦点が当てられることが多いが、当然社会とも密接に関わっている。市民に寄り添って政策を推し進める市として、健康や公正・幸福といった社会的な価値観を発展させていくことは市民の満足度にもつながるといえる。社会の要素を強調することで、バランスよくサーキュラーエコノミーを推進する意図を示している。

市の率先垂範

同戦略は、直接影響を及ぼすことのできる公共調達において成功事例を作るとし、随所に施策に反映している。まず取り組みやすい分野で循環を図り、トップダウン方式で市全体に波及させる意図をもつ。市としては、やりながら学び(Learning by doing)、自ら事例を創出する構えだ。
公共調達は、EUを中心にグリーン公共調達(GPP)を発展させてきたが、同戦略ではアムステルダム市の特性に即して具現化。循環型製品が標準となる流れが加速し、さらにサプライチェーンに影響を及ぼすものと考える。

消費者(市民)の行動変容の期待

サーキュラーエコノミーの「円(製品や原材料のプロセス)」は、主に設計・生産、消費、回収・回復の3つに分かれる(前出のサーキュラーエコノミー処理過程のはしご参照)。消費については、製品のサービス化やシェアリングエコノミーなどシステムで改善できる部分があるものの、やはり消費者の意識に頼らざるを得ない。今回の戦略は、この意識の部分にも焦点を当てているのが大きな特徴といえる。例えば、植物性肉への移行や消費抑制による環境負荷の低減など、市民の消費行動にまで踏み込むものが多く盛り込まれている。

サーキュラーエコノミーは、「less bad(さほど悪くない)」ではなく、「more good(より良い)」の考えが根底にある。(詳しくは、ウィリアム・マクダナー氏、マイケル・ブラウンガート氏の著書『サステイナブルなものづくり―ゆりかごからゆりかご』を一読いただきたい)すなわち消費の効率化を図り、自然環境の悪化を遅らせようとする消費サイドだけの考えではなく、設計・生産・消費・回収・回復のあらゆる手段を講じて製品を循環させ、経済も回しながら自然環境を良くするシステムへの転換を目的とする。しかし、よい製品だからといって無駄に消費をするということではなく、その考えが戦略に色濃く反映されている。「ある領域では摩擦が起きるかもしれない。市民に食や所有に対してこれまでとは違う取り組みをするようにお願いすることになる」と同戦略は認めている。これは、戦略内の各種調査が示しているように、市民のサーキュラーエコノミーに対する理解の深まりと、生活への浸透が進みつつあることが後押ししているとみられる。

最後に

外部環境について、国家としてのオランダもサーキュラーエコノミーを推進、2050年までに完全サーキュラーエコノミーへの移行を目指している。さらにEU全体でも欧州グリーンディールを柱にサーキュラーエコノミーの取り組みを急ピッチで進めており、市として移行が進めやすい環境が整っている。

アムステルダム市は、日本の東京都八王子市より少し大きい面積、東京都世田谷区程度の人口を有する都市である。当然文化や経済、廃棄物処理などの政策等の違いはあるものの、サーキュラーエコノミー戦略として参考になる部分が多いのではないだろうか。自治体におけるサーキュラーエコノミー先進事例して今後も焦点を当てていく。


サークルデザイン 那須 清和
サステナビリティ、特にサーキュラーエコノミーに特化したメディア運営・調査・教育を展開している。
サークルデザイン https://circledesign.co.jp/ja/

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